清水エスパルス新スタジアム「4万人構想」の現在地 清水駅東口で問われる規模と採算性
清水エスパルスの新スタジアムが、最初から4万人収容で建設されると決まったわけではない。2026年7月17日に静岡市サッカー協会が示したのは、J1の試合開催に適した施設を整え、将来的に4万人まで拡張できる構想を求める提案だ。
候補地として具体化しているのは、JR清水駅東口の清水製油所跡地を含む「地域づくりエリア」。静岡市は土地取得を進める一方、収容人数や付帯施設、官民の費用分担を比較する実現可能性調査に入っている。
現段階で押さえたいポイントは次の通りだ。
- 4万人は確定した建設規模ではなく、静岡市サッカー協会が求めた将来の拡張目標
- 新スタジアムはJR清水駅東口のまちづくりにおける中核施設の最有力候補
- 市が取得するENEOS所有地は78,598.52平方メートル、取得費は41億5,000万円
- スタジアム本体の規模、整備費、運営方式は実現可能性調査で複数案を比較
- 2026年度中に事業化の可否について最終結論を取りまとめる予定
ここがポイント: 「4万人を建てるか」だけではなく、「日常的に使える規模で開業し、大規模試合に対応できる拡張余地をどう残すか」が検討の核心になる。
10年以上続いた要望が、土地と事業性を詰める段階へ
構想は要望中心の段階を抜け、候補地を確保して採算性を検証する局面に入った。
清水エスパルスは2014年、IAIスタジアム日本平に代わる新スタジアムの早期実現を静岡市へ要望した。当時から重視されていたのは、鉄道など公共交通で訪れやすく、子どもから高齢者まで安心して観戦できる環境だった。
その後、静岡市はIAIスタジアム日本平の改修、JR清水駅東口、ENEOS清水製油所跡地などを比較。駅や商店街に近く、周辺開発との相乗効果を期待できる清水駅東口が有力になった。
大きく動いたのは2025年から2026年にかけてだ。
- 2025年8月:静岡市とENEOSが袖師地区を中心とする地域づくりの推進で合意
- 2026年2月:市が地域づくりエリア内の約7.9ヘクタールを取得する方針を公表
- 2026年6月:土地取得議案が静岡市議会で可決
- 2026年7月:新スタジアムの実現可能性調査を担う事業者の募集が進み、静岡市サッカー協会も具体的な施設像を要望
市の土地取得費は、2026年度の29億500万円と2027年度の12億4,500万円を合わせた41億5,000万円。ただし、これはスタジアム建設費ではない。新スタジアム本体については、過去の検討で300億円以上との試算も報じられており、資材費や人件費、災害対策を含めた再精査が欠かせない。
「4万人」は完成時の確定席数ではない
4万人という数字は、日常の集客予測よりも、大規模大会を受け入れる将来性を残したいという意思を表している。
静岡市サッカー協会が難波喬司市長へ提出した要望では、J1仕様の施設とともに、収容人数を4万人まで拡張できる構想が示された。ここで重要なのは、「当初から常設4万席」と「将来4万席へ拡張可能」では、必要な建設費も運営負担も異なることだ。
4万人への拡張余地を求める狙い
4万人規模まで広げられれば、清水エスパルスのリーグ戦だけでなく、代表戦や国際大会、大規模イベントを誘致できる可能性が広がる。静岡市サッカー協会が掲げる「サッカーのまち」を、試合開催能力として形にする意味もある。
一方、クラブの通常開催で空席が目立てば、観戦時の一体感や運営効率を損なう。だからこそ現実的な案は、次の二段構えになる。
- 平常時の需要に見合う初期収容人数を設定する
- 基礎、構造、動線、敷地配置に4万人化の余地を組み込む
この方式でも、後から座席を足せば済むわけではない。入退場口、トイレ、売店、避難経路、交通輸送力まで、最大収容時を見越した設計が必要になる。初期費用を抑えながら拡張性を確保できるかが、設計上の難所だ。
市の調査は複数の規模を比べる
静岡市が進める実現可能性調査では、収容人数に加え、VIPルームなどの諸室、飲食・物販、ホテル、子育て施設といった付帯機能を複数パターンで検討する。
つまり、現時点で確定しているのは「4万人のスタジアム」ではない。どの規模と機能なら民間が参画でき、公共負担を抑えながら継続運営できるかを、これから数字で確かめる段階である。
IAIスタジアム日本平との違いは「席数」より立地
新スタジアムが必要とされる最大の理由は、収容人数だけでなく、観客を運ぶ仕組みと試合日の消費を街へつなげにくい現状にある。
IAIスタジアム日本平の収容人数は19,594人。ピッチとの距離が近いサッカー専用スタジアムだが、日本平の山麓に位置し、駅からの移動はバスや自家用車に依存しやすい。
市の候補地比較資料は、現スタジアムについて次の課題を挙げている。
- JR清水駅から公共交通で時間がかかる
- 駐車場が不足し、試合時には自家用車の乗り入れ制限が必要
- 周辺道路の容量が十分ではない
- 全面屋根を設ける場合、造成工事が必要になる可能性がある
- 改修期間中のホームゲーム代替会場を確保しなければならない
2024年にはバス運転士の労働時間規制強化などを背景に、JR静岡駅とIAIスタジアム日本平を結ぶシャトルバスが休止された。アクセスを増便だけで解決し続けることの難しさが表れた事例だ。
清水駅東口は徒歩圏の強みが大きい
過去の市資料では、清水駅東口の候補地はJR清水駅から徒歩3分と整理された。清水駅前銀座商店街まで約0.3キロ、清水河岸の市まで約0.2キロ、エスパルスドリームプラザまで約1.5キロという位置関係も、試合前後の回遊を生み出しやすい。
駅前立地になれば、観客はキックオフ直前に来て試合後すぐ帰るだけではない。飲食、買い物、宿泊へ滞在を広げられる。新スタジアムの経済効果は入場料だけでなく、試合日に生まれる人の流れを清水の街へ接続できるかで決まる。
駅前だからこそ増える課題もある
アクセスの改善は有力な利点だが、清水駅東口には防災、交通、都市計画という重い条件が残る。
候補地は製油所跡地であり、臨港地区・工業専用地域に位置する。スタジアムを整備するには、都市計画制度の活用や変更、土壌調査などが必要になる。
市の比較資料で挙げられた主な論点は次の通りだ。
- 津波浸水や液状化を想定した地盤・避難対策
- 試合終了後に観客が集中する清水駅と歩行者動線の処理
- 港湾道路への負荷と自動車交通の分散
- 近隣病院などへの騒音・混雑対策
- 商業施設や公共施設を含めた土地利用全体の設計
駅から近いことと、数万人を安全に運べることは同じではない。4万人まで拡張するなら、鉄道の輸送力、駅の改札、ペデストリアンデッキ、広場、避難経路を一つのシステムとして検証する必要がある。
また、津波対策は建設費を押し上げる要因になり得る一方、スタジアムを地域の避難・防災拠点として設計する考え方もある。費用だけを見るのではなく、平時と災害時の双方で何を担う施設にするのかが問われる。
300億円超の事業を成立させる条件
建設費を回収する鍵は、年間のホームゲーム数ではなく、試合がない日にも収益を生む複合施設にできるかどうかだ。
報道では、IAIスタジアム日本平の改修に約150億円、新設には300億円以上が必要との比較が示されてきた。さらに4万人への拡張性、全面屋根、防災対策、駅周辺のインフラ整備を盛り込めば、負担は増える可能性がある。
そこで市が前提としているのが官民連携だ。実現可能性調査では、民間事業者の参入意向、収支見通し、市の負担金を導入できる範囲、経済波及効果を検証する。
収益性を左右する付帯機能
調査対象には、次のような施設が含まれる。
- VIPルーム、ラウンジ、企業向け観戦スペース
- 飲食店、物販店
- ホテル
- 子育て施設
- 試合日以外にも使えるイベント・交流空間
VIP席や飲食施設は、一般席より高い単価を生みやすい。ホテルや子育て施設は、年間を通じて人が訪れる理由になる。ただし、機能を増やせば自動的に採算が良くなるわけではない。周辺の既存店舗と競合せず、駅前銀座や河岸の市、ドリームプラザへ人を送り出す配置が必要だ。
地域への経済効果も同様である。来場者数だけでなく、県外客の宿泊率、滞在時間、周辺店舗での消費、雇用、民間の追加投資まで測らなければ、公共投資の妥当性は判断できない。
4万人構想を評価するための三つの基準
賛成か反対かを決める前に、規模、負担、地域利用の三点を数字で確認する必要がある。
1. 通常開催と大規模開催を分けた需要予測
清水エスパルスのリーグ戦で必要な席数と、代表戦・国際大会で必要な席数は分けて考えるべきだ。初期規模、増設条件、増設費を並べた案が示されれば、4万人化の現実性を判断しやすくなる。
2. 公共負担の上限とリスク分担
土地取得費、スタジアム本体、駅・道路、防災設備の費用を分け、誰が建設費と運営赤字のリスクを負うのかを明確にする必要がある。民間投資を前提にするなら、参画企業の収益源と契約期間も重要になる。
3. 年間365日の利用計画
ホームゲームのない日に、誰が何のために訪れるのか。飲食、ホテル、子育て、地域イベントなどの需要を具体化できなければ、駅前の一等地を使う効果は限定される。
次に見るべきは「4万人」ではなく調査の比較案
静岡市サッカー協会の要望は、清水駅東口の新スタジアムに国際的な試合を受け入れられる将来性を残したい、という明確な意思表示だ。一方、市は4万人収容を決定しておらず、新スタジアムそのものも実現可能性の検証中にある。
今後の注目点は絞られる。
- 初期収容人数と4万人へ拡張する具体的な方法
- 各規模案の建設費、維持費、年間収入
- 民間事業者の参画意向と市の負担額
- 津波、液状化、駅混雑への対策費
- IAIスタジアム日本平の将来用途
- 2026年度中に示される事業化の最終判断
4万人という数字は夢の大きさを示す。しかし、構想を前へ進めるのは数字の迫力ではない。通常のリーグ戦で無理なく運営でき、必要なときには大舞台へ拡張できる設計を、費用と需要の裏付け付きで示せるか。 次に確認すべき材料は、実現可能性調査で提示される複数案の中身である。
参照リンク
- JR清水駅東口の新サッカースタジアム構想をめぐり静岡市サッカー協会が要望書を提出(SBS NEWS DIG)
- Yahoo!ニュース掲載記事
- JR清水駅東口地域づくりエリアの土地利活用方針(静岡市)
- 令和8年度当初予算案の概要(静岡市)
- サッカースタジアムを活かしたまちづくり検討委員会資料(静岡市)
- 新スタジアム建設の要望活動について(清水エスパルス)
- IAIスタジアム日本平 スタジアム・アクセス(清水エスパルス)
- 2024シーズン IAIスタジアム日本平へのアクセスに関するお知らせ(清水エスパルス)
- 静岡市、新スタジアム整備へ実現可能性調査(建通新聞)
- 静岡市が清水駅東口の候補地を41億5000万円で購入へ(SBS NEWS DIG)


