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清水エスパルスの新スタジアム構想、これまでの経緯と実現までの課題は?

清水エスパルスの新スタジアム構想、これまでの経緯と実現までの課題は?

清水エスパルスの新スタジアム構想は、単なる「新しい器」づくりではありません。現本拠地のIAIスタジアム日本平をJ1基準に近づける改修だけで約148億円が必要になる一方、JR清水駅東口のENEOS旧清水製油所跡地を使えば、観戦環境の改善と清水駅前の再開発を同時に進められる、という判断に軸足が移っています。

2026年4月時点で建設そのものが完了したわけではありません。ただし、静岡市は2026年2月にJR清水駅東口の候補地の一部を41億5000万円で取得する方針を示し、新設案は「構想」から「事業化を詰める段階」へ進みました。

  • 現スタジアムの主な課題は、老朽化、屋根やトイレなどの施設基準、アクセス、回遊性
  • 最有力候補地はJR清水駅東口のENEOS旧清水製油所跡地
  • 参考になるのは、寄付型のパナスタ、都心公園型のEピース、民間複合開発型のピースタ
  • 最大の壁は、建設費、民間投資、土地区画整理、タンク撤去・土壌対策、防災、交通処理

ここがポイント: 清水の新スタジアムは「エスパルスの本拠地問題」であると同時に、「清水駅東口をどう再生するか」という都市計画の問題でもあります。

目次

これまでの経緯を時系列で整理する

話の出発点は、エスパルスが急に新スタジアムを欲しがった、という単純なものではありません。クラブライセンス、観戦環境、交通アクセス、清水駅前の遊休地活用が、10年以上かけて一つの論点に重なってきました。

2014年: クラブが新スタジアム建設を要望

清水エスパルスは2014年7月、静岡市に新スタジアム建設の要望書を提出しました。クラブ公式発表では、IAIスタジアム日本平について、Jリーグクラブライセンスの施設基準に未充足項目があり、将来的にホームスタジアムとして使い続けることへの危機感が示されています。

特に挙げられていたのは、観客席の屋根、洋式トイレ、アクセスの良さ、安心して観戦できる環境です。つまり、早い段階から論点は「収容人数を増やす」だけではなく、誰が来ても使いやすいスタジアムに変えることにありました。

2021年: 静岡市とENEOSが基本合意

大きな転機は、JR清水駅東口のENEOS旧清水製油所跡地です。静岡市とENEOSは2021年7月、清水区袖師地区を中心とした次世代型エネルギーの推進と地域づくりに関する基本合意を結びました。

静岡市の2024年3月の最終報告資料では、この基本合意の目的として、清水製油所跡地を中心に次世代型エネルギー供給プラットフォームを構築し、「まち」と「みなと」が一体となった地域づくりを進めることが説明されています。

この時点で、スタジアムは単独施設ではなく、駅、港、商業、エネルギー、防災を含むまちづくりの核として扱われるようになりました。

2022年: 検討委員会で清水駅東口が有力に

静岡市は2022年に「サッカースタジアムを活かしたまちづくり検討委員会」を設置しました。市の公式ページでは、設置目的を「市のまちづくりに資するサッカースタジアム」や周辺まちづくりの調査審議としています。

2024年3月の市資料では、2022年度の検討結果として、まちづくり効果や交通アクセスを考えると、JR清水駅東口のENEOS清水製油所跡地への立地が望ましいと整理されました。

2024年: 改修費と新設案の比較が具体化

2024年3月、静岡市は土地利用条件整理の最終報告を公表しました。ここで議論は一段具体的になります。

市資料によると、IAIスタジアム日本平を今後約30年、プロサッカー仕様で使うための大規模改修費は約148億円。現地で建て替える場合は約236億円、市民利用を前提に最低限存続させる場合は約19億円とされました。

重要なのは、148億円をかけても日本平の立地そのものは変わらないことです。駅前への人の流れ、飲食・商業との連動、試合日以外のにぎわいは、清水駅東口案の方が作りやすい。静岡市はこの点を、社会的便益の差として見ています。

2025年: ENEOSとの合意で候補地検討が前進

2025年8月、静岡市はJR清水駅東口の土地利活用についてENEOSと合意しました。静岡放送・静岡新聞系の報道では、難波喬司市長が「新スタジアム整備の検討が可能になった」と説明しています。

ただし、この合意書に新スタジアム建設が明記されたわけではありません。ここで決まったのは、候補地として本格的に検討できる条件が整った、という段階です。

2026年: 市が候補地の一部取得へ

2026年2月、静岡市はENEOS所有地の一部を41億5000万円で購入する方針を示しました。SBS NEWS DIGによると、対象は約14.4ヘクタールのうち7.8ヘクタールで、JR清水駅東口にスタジアムを新設する方が望ましいと判断したと報じられています。

ここで清水の構想は、かなり現実味を帯びました。土地を押さえなければ、民間事業者は出店計画も投資判断もできません。逆に言えば、土地取得はゴールではなく、事業者、資金、設計、運営を詰めるための入口です。

なぜ新スタジアムが必要なのか

IAIスタジアム日本平には、清水のサッカー文化を支えてきた重みがあります。ピッチとの距離感や日本平の雰囲気は、クラブの記憶そのものです。

それでも新設論が強まるのは、今のJリーグで求められるスタジアムが、週末に試合をする場所だけではなくなっているからです。

施設基準と快適性の問題

清水エスパルスが2014年の要望で挙げたように、IAIスタジアム日本平には、屋根やトイレなどクラブライセンス施設基準に関わる課題があります。2024年の静岡市資料でも、現在のIAIスタジアムはプロサッカー仕様、つまりJ1基準を満たしていないと整理されています。

雨の日に濡れにくい席、子どもや高齢者が使いやすいトイレ、混雑をさばけるコンコース、車いす席や多様な観戦席。これらは「ぜいたく」ではなく、観客数を安定させるための基本設備になっています。

アクセスと試合前後の時間

日本平は清水らしい場所ですが、駅前型ではありません。車やシャトルバスに頼る比重が高く、試合前後の移動負荷が大きくなります。

JR清水駅東口なら、駅から歩いてアクセスでき、清水文化会館マリナート、河岸の市、港湾エリア、新清水駅方面との回遊も作れます。試合だけを見て帰るのではなく、昼に食べ、夕方に観戦し、夜に駅周辺で過ごす流れが生まれやすい。

これはクラブ収入だけでなく、駅前商業や観光にも関係します。

改修では得にくい都市効果

IAIスタジアムを148億円規模で改修すれば、一定の施設改善はできます。ただし、駅前の空き地を活用した新しい人流は生まれません。

清水駅東口案の強みは、スタジアムを起点に、商業、広場、ホテル、オフィス、エネルギー、防災機能を組み合わせられる点にあります。ここが、単なる本拠地移転と違うところです。

メリットと課題を分けて見る

新スタジアム構想には期待がある一方、越えるべき壁も大きいです。メリットだけで押し切ると、事業費や運営負担の議論が薄くなります。逆に課題だけを見ると、清水駅東口という立地の価値を見落とします。

期待できるメリット

  • 観戦体験の改善: 屋根、トイレ、座席、コンコース、飲食、ホスピタリティ席を現代基準で設計できる
  • 駅前回遊の創出: JR清水駅、港、商業施設、飲食店を試合前後の動線に組み込める
  • クラブ収益の拡大: VIP席、ラウンジ、イベント利用、命名権、広告などを設計段階から作れる
  • まちづくりとの連動: 清水駅東口の遊休地を、日常的に人が来る場所へ変えられる
  • 防災・エネルギー面の設計余地: 津波、液状化、停電時対応を前提に、周辺整備と一体で考えられる

特にクラブにとって大きいのは、試合日の売上だけでなく、年間を通じた収益源を作れることです。近年の新スタジアムは、チケット収入だけに頼らず、ラウンジ、会議室、飲食、イベント、ツアー、広告を組み合わせています。

残る課題

  • 建設費がいくらになるか
  • 市、クラブ、民間事業者、県、ENEOSの負担割合をどう決めるか
  • タンク撤去、土壌汚染対策、地盤のかさ上げをどう進めるか
  • 津波浸水想定や液状化リスクにどう備えるか
  • 試合日の交通集中を駅、道路、駐車場、歩行者動線でどう処理するか
  • 既存のIAIスタジアム日本平を将来どう使うか

静岡市の2024年資料は、土地利用上の法令、津波想定、土壌汚染、交通課題、騒音・光害などを検討項目に入れています。これは、候補地が駅前で便利な一方、港湾・工業系の跡地であり、普通の更地ではないことを意味します。

近年の新スタジアムから何を学べるか

清水の参考になるのは、単に「新しいスタジアムはきれい」という話ではありません。資金の集め方、立地の使い方、試合日以外の稼働、民間投資の呼び込み方に違いがあります。

スタジアム開業・竣工規模清水が参考にできる点
パナソニック スタジアム 吹田2015年竣工約40,000人寄付金・助成金を組み合わせた資金調達。サッカー専用で観戦品質を高めた。
エディオンピースウイング広島2024年開業約28,500人都心公園と一体化し、365日のにぎわいを掲げた。清水駅東口のまちづくりに最も近い比較軸。
PEACE STADIUM Connected by SoftBank2024年開業約20,000席ホテル、アリーナ、商業、オフィスを含む民間主導の複合開発。民間投資を呼び込む設計の参考になる。

パナスタ: 市民・企業を巻き込むモデル

パナソニックスタジアム吹田は、公式サイトで総事業費約140億8566万円、寄付金と助成金による調達が示されています。法人721社、個人3万4627人という数字は、スタジアムを「地域で作った」物語に変えました。

清水で同じ方式をそのまま再現するのは簡単ではありません。建設費は当時より上がり、清水駅東口では土地造成や周辺整備も重くなります。それでも、企業版ふるさと納税、寄付、命名権、クラブ支援メニューをどう組み合わせるかという点で、パナスタは今も参考になります。

Eピース: まちなかスタジアムの実例

エディオンピースウイング広島は、公式サイトで「365日のにぎわい」を目的に設計されたスタジアムと説明されています。敷地面積約4万9900平方メートル、収容人数約2万8500人。ピッチと観客席の距離は各方面最短8メートルです。

清水が最も学びたいのはここです。JR清水駅東口に作るなら、試合がない平日にどう人を呼ぶかが事業の成否を分けます。広島のように、公園、商業、ミュージアム、スタジアムツアー、飲食を重ねられれば、スタジアムは「月2回の施設」ではなくなります。

ピースタ: 民間複合開発の迫力

長崎スタジアムシティは、公式サイトでサッカースタジアム、アリーナ、ホテル、商業施設、オフィスからなる大型複合施設と説明されています。PEACE STADIUM Connected by SoftBankは約2万席で、ピッチとの距離は最短約5メートル。全体事業費は約1000億円です。

清水と長崎では事業主体も都市規模も違います。ただ、スタジアムを「試合会場」ではなく「滞在する街」として設計した点は大きなヒントになります。清水駅東口でも、ホテル、飲食、港湾観光、ワーキングスペース、イベント利用をどこまで一体化できるかが問われます。

清水以外の新スタジアム建設の動き

Jリーグ全体でも、スタジアム問題は各地で進んでいます。清水だけが特別なのではなく、クラブライセンス、観戦環境、自治体財政、民間投資のバランスを各地域が探っています。

モンテディオ山形: 民間資本で一気に進める動き

モンテディオ山形は2026年2月、株式会社エスコンとの資本提携を発表しました。クラブ公式によると、エスコンは新スタジアム構想を進めるモンテディオフットボールパークに最大50億円を出資し、クラブ株式の98%を取得する予定です。

山形の課題は、観客席とピッチの距離、降雪地での屋根など。清水と同じく観戦環境の改善が出発点ですが、山形はクラブ運営会社の資本構成まで変えて、民間主導色を強めています。清水にとっては、民間投資をどれだけ本気で引き込めるかという比較対象になります。

ブラウブリッツ秋田: ライセンスと財政負担の難しさ

ブラウブリッツ秋田は2026年2月、新スタジアム整備に関する考え方を発表しました。クラブは1万人規模のフットボール専用スタジアムが必要としつつ、建設資材・労務費の高騰、地代や固定資産税、法令上の課題から、民設での建設は困難と説明しています。

秋田の論点は、清水にも直結します。理想のスタジアム像があっても、誰が建て、誰が維持費を負担し、どの規模なら将来も運営できるのか。この問いに答えなければ、計画は前に進みません。

鹿児島市: 中心市街地活性化とライセンス対応

鹿児島市は多機能複合型スタジアムの整備検討を進めています。市公式ページでは、白波スタジアムの座席数や屋根のカバー率がJリーグ施設基準で不足していること、スタジアム整備により中心市街地活性化や経済波及効果が期待できることが示されています。

鹿児島は、清水と似ています。クラブライセンスへの対応だけでなく、まちなかのにぎわいをどう作るかがテーマです。一方で、候補地、事業主体、財源をめぐる合意形成には時間がかかります。

清水の結論: 駅前新設は合理的。ただし「民間投資の設計」が成否を決める

清水エスパルスの新スタジアム構想は、現時点ではJR清水駅東口での新設が最も合理的です。理由ははっきりしています。

IAIスタジアム日本平を改修しても、老朽化と施設基準には対応できますが、アクセスや駅前回遊、まちづくり効果は限定的です。清水駅東口なら、スタジアムを中心に、港、商業、交通、防災、エネルギーをまとめて再設計できます。

ただし、合理的であることと、実現できることは別です。

今後の焦点は、次の4点に絞られます。

  • 建設費と周辺基盤整備費の総額をどこまで明確にできるか
  • 市の負担、民間投資、寄付、命名権、国の支援をどう組み合わせるか
  • 試合日以外に稼ぐ機能を、設計段階からどれだけ入れ込めるか
  • IAIスタジアム日本平を、地域スポーツや市民利用の場としてどう残すか

清水の新スタジアムは、エスパルスの未来を左右するだけではありません。JR清水駅東口が、試合の日だけ混む場所になるのか、平日も人が歩く港町の入口になるのか。その差を決めるのは、これから出てくる事業計画の中身です。

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