日本人FWが欧州でつまずく本当の壁 「点を取る人」から「攻撃を成立させる人」へ
欧州で日本人FWが苦戦しやすい理由は、決定力だけでは説明できない。むしろ分かれ目になるのは、味方が前進できない時間にボールを収めること、守備のスイッチを入れること、相手センターバックを動かして2列目のスペースを作ることだ。
エールディヴィジのフェイエノールトに所属する上田綺世は、リーグ公式の選手ページで「attacker」として登録されている。だが、欧州クラブでFWに求められる仕事は、登録上の肩書きより広い。2025-26シーズンのエールディヴィジ公式順位表では、フェイエノールトは34試合で70得点、2位。NECナイメヘンは77得点で3位に入った。上位クラブほど、FWは最後に触るだけでなく、攻撃全体の流れを整える役割を背負う。
この記事で分かることは次の3点だ。
- 日本人FWが欧州で苦戦しやすい理由は「ゴール不足」だけではない
- 欧州のリーグ戦では、FWの守備、ポストプレー、配置移動が出場時間を左右する
- Jリーグや日本代表で評価されるFW像と、欧州クラブで求められるFW像にはズレがある
FWの評価軸は、シュート前から始まっている
欧州でFWが最初に問われるのは、シュートを打った場面ではなく、味方がまだ自陣にいる場面で何をしたかだ。
Jリーグや日本代表の文脈では、FWの評価は得点数、決定機での落ち着き、裏抜けの鋭さに寄りやすい。もちろんそれらは重要だ。だが欧州のリーグ戦では、相手のプレス強度が高く、センターバックも前に出て潰しに来る。FWがボールを受ける前から、すでに勝負は始まっている。
具体的には、次の仕事が出場時間に直結する。
- ロングボールを競り、こぼれ球を味方が拾える場所に落とす
- センターバックを背負ってファウルをもらい、チームを押し上げる
- 守備時に相手アンカーへのパスコースを消す
- サイドに流れて、ウイングやインサイドハーフの走路を空ける
- ゴール前で待つだけでなく、ニアへの動きで味方のシュートコースを作る
ここで苦戦すると、たとえシュート技術があっても「試合に入り切れていない」と見られる。FWは孤立しているように見えて、実際には最も多くの味方とつながるポジションになっている。
ここがポイント: 欧州でFWが評価される順番は「点を取ったか」だけではなく、「チームが敵陣に入るまでを助けたか」から始まる。
エールディヴィジが示す、FWの役割の広がり
オランダは日本人FWを見るうえで分かりやすいリーグだ。守備ラインが高く、攻撃時の人数も多いぶん、FWの動きがチーム全体の配置に直結する。
エールディヴィジ公式の2025-26シーズン順位表では、PSVが101得点で優勝、フェイエノールトが70得点で2位、NECが77得点で3位だった。数字だけを見ると「点を取れるチームが上にいる」という単純な話に見える。
しかし、FWの仕事を分解すると少し違う景色になる。
フェイエノールト型: 主導権を握るチームのFW
フェイエノールトのように上位でボールを持つ時間が長いチームでは、FWはペナルティエリア内で待つだけでは足りない。
相手は低い位置で守る時間が増える。中央は混み、FWの背後に広いスペースは残りにくい。そこで必要になるのは、次のような細かい動きだ。
- センターバックの前に下りて、背後に走る味方を使う
- ニアに走って相手CBを引っ張り、ファーの選手を空ける
- クロスが入る前に一度消えて、マークの視野から外れる
- 守備に切り替わった瞬間、最初に相手の逃げ道を塞ぐ
上田綺世のようなストライカーにとって、ここは強みと課題が同時に出る領域だ。ゴール前の入り直しや一瞬の抜け出しは武器になる。一方で、相手を背負って攻撃を一度止めない、味方の上がりを待つ、前線から守備の方向を決めるといった仕事が不十分だと、ボールに触る回数そのものが減る。
NEC型: 速く進むチームのFW
NECのように得点数が多く、縦への推進力を使えるチームでは、FWには別の難しさがある。速攻の終点になるだけでなく、速攻を始める接点にもならなければいけない。
小川航基はJリーグ時代、横浜FCで2022年のJ2最優秀選手賞と得点王を同時に獲得したストライカーだ。Jリーグ公式の表彰リリースが示す通り、日本ではゴール前で結果を出す能力が高く評価された。
欧州では、その能力に加えて、長い距離を走る味方へどのタイミングで落とすか、相手CBと競った後にどれだけ早く次の守備へ移れるかが問われる。強く、速く、止まらない。FWにとっては、得点感覚だけでなくプレーの連続性が必要になる。
日本人FWがぶつかる3つのズレ
苦戦の原因は、個人能力の不足というより、慣れてきた評価軸とのズレにある。
1. 背負うプレーの接触が重い
欧州のCBは、FWがトラップする前に体を当ててくる。日本で通った反転やワンタッチの逃げ方が、同じ速度では通らない場面が増える。
ここで必要なのは、単に体を大きくすることではない。ボールを受ける前に相手の立ち位置を見て、半身で受けるか、先にファウルを誘うか、無理に収めずワンタッチで逃がすかを選ぶ判断だ。
2. 守備の出発点として見られる
欧州の多くのクラブでは、FWは守備免除の選手ではない。最前線の選手が相手のパスコースを限定しなければ、後ろの選手が連動して奪いに行けない。
この仕事は記録に残りにくい。だが、監督やチームメイトには見える。FWが一歩遅れて出るだけで、相手CBは余裕を持って前進できる。逆にFWが正しい角度で寄せれば、味方のインサイドハーフやサイドバックが狙って奪える。
3. 得点の前に「配置」を動かす必要がある
日本人FWは裏抜けやワンタッチシュートに強みを持つ選手が多い。一方で欧州の上位クラブでは、相手が最初から背後を消してくる。
そのときFWは、あえて下りる、サイドに流れる、CBの前に立つ、逆サイドのクロスに遅れて入るなど、相手の守備を動かす役割を担う。得点者にならない動きが、次の得点を生む。ここを評価されるまでに時間がかかる選手は少なくない。
Jリーグとの違いは「技術」より「時間の短さ」
JリーグのFWが欧州で通用しない、という話ではない。むしろ技術、動き出し、献身性は十分に武器になる。違いが出やすいのは、判断に使える時間だ。
Jリーグでは、FWが下りて受けたあとに一度前を向ける場面がある。欧州では、その前向きの一瞬を相手が潰してくる。だからFWには、受ける前の準備がより強く求められる。
読者が試合を見るときは、シュート数だけでなく次の場面を追うと見え方が変わる。
- ロングボールを競った後、味方がセカンドボールを拾えているか
- FWが下りたとき、相手CBがついてきたか、残ったか
- 守備時にFWがどのパスコースを消しているか
- クロスの瞬間、FWがニア、中央、ファーのどこを選んだか
- ゴールがなくても、味方の決定機にFWの動きが関わっていたか
この見方をすると、FWの良し悪しは得点表だけでは判断できない。0得点の試合でも攻撃を成立させたFWはいるし、1得点してもチームの前進を止めてしまうFWもいる。
日本代表への示唆: 1トップは「点取り屋」だけでは足りない
日本代表で欧州組のFWを評価するときも、クラブでの役割を切り離して見るべきではない。
代表戦では、相手が引いて守る試合もあれば、強豪相手に日本が押し込まれる試合もある。前者ではゴール前の動き直し、後者ではロングボールを収める力と守備の出発点になる力が必要になる。つまり、1トップに求められる条件は相手によって変わる。
上田綺世のように欧州の上位クラブでプレーするFWは、密集したエリアで一瞬を作る力が問われる。小川航基のように高さとゴール前の強さを持つFWは、押し込まれる時間にチームを前へ出す出口になれるかが重要になる。
代表のFW選考を見るうえでは、単純なゴール数比較よりも、次の分岐を意識したい。
- ボールを持てる試合で、相手CBをどう動かせるか
- 押し込まれる試合で、前線に逃げ道を作れるか
- 守備の開始位置をチーム全体と合わせられるか
- 途中出場で、試合のテンポを変えられるか
ここまで見れば、欧州での苦戦は失敗ではなく、FW像を広げる過程として読める。得点はもちろん必要だ。ただし、得点だけを待っているFWは、欧州では先に出場時間を失う。
今後見るべきポイント
日本人FWが欧州で評価を上げるには、ゴール数の増加だけでなく、試合に関わる時間を増やす必要がある。
今後のチェックポイントは明確だ。
- 上位クラブでは、密集地帯で味方を使うプレーが増えるか
- 中堅クラブでは、前線で収めてチームを押し上げられるか
- 代表では、相手の強度に応じてFWのタイプを使い分けられるか
- Jリーグの育成では、若いFWに守備とポストプレーをどこまで求めるか
欧州で日本人FWが苦戦する理由は、ゴール前の最後の一歩だけにあるのではない。むしろ、その一歩にたどり着くまでの30メートルで、FWの価値はかなり決まっている。

