ヨルダン代表は初のW杯で何を見せるのか アル・タマリと速攻から読むチーム紹介
ヨルダン代表を見るときの入口は、まず「初出場の記念参加」ではなく、アジア最終予選を自力で抜けた実戦的なチームとして捉えることだ。2025年6月5日のオマーン戦を3-0で勝ち切り、韓国のイラク戦勝利も重なって、ヨルダンは2026年FIFAワールドカップ出場を決めた。
強みは分かりやすい。前線にスピードと決定力を持つムサ・アル・タマリ、アリ・オルワンらを置き、奪ってから一気にゴール前へ運ぶ。反面、本大会ではアルゼンチン、アルジェリア、オーストリアと同組。守備時間が長くなったときに、どこまで耐えて、どこで前に出るかが問われる。
- ヨルダンは2026年大会でワールドカップ初出場
- アジア最終予選グループBを2位で突破
- 監督はジャマル・セラミ。2026年6月2日に26人の本大会メンバーを発表
- グループJでオーストリア、アルジェリア、アルゼンチンと対戦
- 日本の読者が見るべき点は、アジア中堅国が世界相手にどう前進守備と速攻を使うか
初出場までの道筋は「勢い」だけではない
ヨルダンの本大会出場は、単発の番狂わせではない。2023年アジアカップで決勝まで進んだ流れを、ワールドカップ予選でも結果につなげた。
AFCアジア予選の第3ラウンドで、ヨルダンは韓国、イラク、オマーン、パレスチナ、クウェートと同じグループBに入った。最終盤の大きな山は、2025年6月5日のオマーン戦だった。
この試合でヨルダンは3-0勝利。AFCは、アリ・オルワンのハットトリックによってヨルダンが勝点16に到達し、同日の韓国対イラクの結果を受けて本大会出場が決まったと伝えている。
その後、6月10日の最終戦ではイラクに0-1で敗れた。つまり、予選の締め方には課題も残った。だが、直接出場圏を守り切った事実は重い。
ここがポイント: ヨルダンは「勢いのある挑戦者」だが、アジア予選を10試合規模で戦い抜いたチームでもある。短期大会だけの印象で見ると、強みを見落としやすい。
監督セラミが引き継いだものと変えたもの
ヨルダン代表の現監督は、モロッコ出身のジャマル・セラミ。ヨルダン協会は2026年6月2日、セラミ監督率いる最終メンバー26人を発表した。
セラミ体制の特徴は、前任期に作られた「粘り強く守って、前線の個で刺す」土台を壊さず、本大会用に整理している点にある。代表チームはクラブと違い、長い準備期間を持てない。FIFAのインタビューでも、代表監督が選手と密に作業できる時間は限られるという文脈が語られている。
守備から入れるチーム
ヨルダンは、ボール保持で相手を押し込むチームというより、相手の前進を受けながら、奪った瞬間に前へ出るチームとして見た方が分かりやすい。
本大会ではアルゼンチンのように、長くボールを持てる相手と向き合う。そこで重要になるのは、ただ引くだけではなく、次の3点をどこまでそろえられるかだ。
- 最終ラインと中盤の距離を空けすぎない
- 奪った直後にアル・タマリやオルワンへ素早く届ける
- 押し込まれた時間帯でも、セットプレーや二次攻撃で陣地を戻す
速攻の出口が明確
ヨルダンの攻撃で最も名前が出るのは、レンヌ所属のムサ・アル・タマリだ。FIFAは2026年5月のメンバー記事で、アル・タマリがレンヌで公式戦36試合に出場し、7得点11アシストを記録したこと、さらにアジア予選でも7得点を挙げたことを紹介している。
彼は単なる「有名選手」ではない。ヨルダンが自陣から前へ出るとき、最初に相手を下げさせる存在になる。縦への加速、カットイン、ファウルを受ける力があるため、守備時間が長い試合でも一度の前進で空気を変えられる。
一方で、攻撃の出口が明確であるほど、相手もそこを消しにくる。本大会では、アル・タマリの周囲で誰がサポートに入り、誰が逆サイドや中央で空いたスペースを使うかが重要になる。
26人の顔ぶれから見えるチーム事情
ヨルダン協会が発表した本大会メンバーは26人。ゴールキーパーから前線まで、国内クラブ所属の選手と国外でプレーする選手が混ざる構成だ。
協会発表のリストには、ヤジード・アブ・ライラ、アブドゥラー・アル・ファフーリ、ヌール・バニ・アティア、アブドゥラー・ナシーブ、ヤザン・アル・アラブ、エフサン・ハダッド、ヌール・アル・ラワブデ、ニザル・アル・ラシュダン、ムサ・アル・タマリ、アリ・オルワンらが含まれている。
アル・ナイマト不在の意味
FIFAは5月の予備登録段階で、ヤザン・アル・ナイマトが膝の負傷により外れたと伝えている。ヨルダンにとって、これは小さくない。
アル・ナイマトはアジアカップで存在感を示した前線の選手で、相手センターバックを背負う、ボールを収める、ゴール前に入るという複数の役割を担える。彼がいない場合、ヨルダンは前線の組み合わせで別の解を作る必要がある。
そこで鍵になるのが、アリ・オルワンやイブラヒム・サブラ、マフムード・マルディらの役割分担だ。とくにオルワンはオマーン戦で3得点を挙げ、ワールドカップ出場を決める局面で結果を出した。相手の背後を狙うだけでなく、アル・タマリに守備が寄った瞬間に中央へ入れるか。そこが攻撃の厚みになる。
ハダッド復帰は守備の安定材料
エフサン・ハダッドの名前が最終メンバーに入ったことも見逃せない。FIFAは予備登録の記事で、長期離脱から戻った選手としてハダッドに触れている。
本大会でヨルダンが勝点を取るには、華やかな速攻だけでなく、サイドでの1対1、クロス対応、終盤の集中力が必要になる。特にオーストリア、アルジェリアはフィジカルと走力を持つ選手が多い。サイドの守備強度は、そのまま試合の安定感に直結する。
グループJでの現実的な狙い
ヨルダンはグループJで、オーストリア、アルジェリア、アルゼンチンと対戦する。ヨルダン協会発表では、初戦は6月17日のオーストリア戦、続いて6月23日にアルジェリア戦、6月28日にアルゼンチン戦という日程だ。
この順番は大きい。初戦のオーストリア戦で勝点を取れなければ、アルジェリア戦以降の負荷は一気に上がる。逆に初戦で引き分け以上を得れば、アルジェリア戦に現実的な突破の可能性を持ち込める。
| 試合 | 相手 | 見どころ |
|---|---|---|
| 第1戦 | オーストリア | 強度の高いプレスを受けたとき、ヨルダンが前線へ逃がせるか |
| 第2戦 | アルジェリア | 個の突破力と球際に対して、守備ブロックを保てるか |
| 第3戦 | アルゼンチン | 長い守備時間の中で、速攻とセットプレーをどれだけ作れるか |
アルゼンチン戦だけを見れば、ヨルダンは明確な挑戦者だ。ただし、48カ国制のワールドカップでは、3位通過の可能性も大会全体の見方に影響する。初戦と第2戦で勝点を積めるかが、ヨルダンの大会を決める。
日本の読者がヨルダンから見るべきこと
日本代表とヨルダン代表は、現時点で同じグループではない。それでも、日本の読者にとってヨルダンを見る意味はある。
理由は、アジアの中堅国が世界大会で何を武器にするかが、今後のAFC全体の基準になるからだ。日本はアジア最上位層として、ボール保持、前線の守備、欧州組の厚みで上積みを進めている。一方でヨルダンは、限られた戦力を役割で整理し、強みを短い時間に集中させる。
ここには、Jリーグや日本代表の見方にもつながる論点がある。
- ボールを持てない時間帯に、前線の選手をどう孤立させないか
- 速いウイングを生かすため、逆サイドと中央の選手がどこに入るか
- アジアの予選で通用した守備ブロックが、欧州・南米相手にどこまで耐えるか
- 代表チームが短い活動期間で、どこまで共通理解を作れるか
日本が世界大会で上位を狙うなら、格上相手にボールを持つ試合だけでなく、持てない時間の設計も避けて通れない。ヨルダンはその意味で、アジアの別解を示すチームだ。
強みと不安材料を整理する
最後に、ヨルダン代表を初めて見る読者向けに、強みと不安材料を分けておきたい。
強み
最大の武器は、前線の明確な出口だ。 アル・タマリを中心に、速攻で相手の背後を取れる。オルワンのように予選の重要局面でゴールを決めた選手もいる。
守備から入る戦い方にも慣れている。アジア予選では、相手にボールを持たれる時間を受け入れながら、勝点を積む試合を作った。
不安材料
不安は、押し込まれた後の脱出と、主力への依存度だ。アル・タマリにボールが入らない時間が続くと、攻撃が単発になりやすい。
また、アル・ナイマト不在により、前線でボールを収める役割の再設計が必要になる。本大会では、相手のセンターバックやアンカーの圧力がアジア予選以上に強くなる。そこをどう逃がすかが勝点の分かれ目になる。
本大会での注目点
ヨルダン代表は、初出場国らしい勢いを持つ一方で、戦い方はかなり現実的だ。守って、奪って、前に出る。その精度を90分間保てるかが、グループJの焦点になる。
見るべきポイントは、派手なスコア予想よりも次の3つだ。
- 初戦オーストリア戦で、前線までボールを運ぶ回数を作れるか
- アル・タマリが厳しいマークを受けたとき、周囲が得点機を作れるか
- 守備ブロックが下がり切った時間帯に、セットプレーやカウンターで流れを戻せるか
ヨルダンが勝ち上がるには、3試合すべてで完璧に戦う必要はない。まずは初戦で勝点を取り、アルジェリア戦を意味のある試合にすること。そこに、このチームの現実的な突破ルートがある。
参照リンク
- Jordan Football Association: إعلان قائمة النشامى لنهائيات كأس العالم 2026
- FIFA: Jordan qualify for first time
- FIFA: Al Tamari headlines Jordan’s preliminary squad
- FIFA: AFC qualifying results and fixtures for World Cup 26
- AFC: Group B – Iraq 0-2 Korea Republic
- AFC: Group B – Jordan 0-1 Iraq
- AFC: Official Match Schedule MD9&10
- Stade Rennais F.C.: Mousa Al-Tamari
