2週間の七飯町キャンプで何を積み上げたか 川崎フロンターレが開幕前に試した「プラスα」
キャンプ5日目、負荷をかけた状態で臨んだヴァンラーレ八戸とのトレーニングマッチ。川崎フロンターレは大関友翔と宮城天のゴールで2-0と勝利した。
この一戦に表れたのは、チームを一から作り直すのではなく、長谷部茂利監督のもとで積み上げてきたものに質と強度を加えるというキャンプの狙いだ。北海道七飯町での14日間は、2026/27シーズン開幕へ向けてコンディション、既存戦術、新戦力の適応を同時に進める時間になった。
この記事で分かること
- キャンプは7月12日から25日まで、北海道七飯町で実施
- 長距離走を含む高負荷のメニューから実戦へ段階的に移行
- ヴァンラーレ八戸との練習試合は2-0で勝利
- ペドロ・ホマーノとカイキ・ケイロスが実戦で持ち味を示した
- 2026/27明治安田J1リーグ初戦は8月9日の東京ヴェルディ戦
七飯町キャンプの概要 8年ぶりの「トルナーレ」
川崎は7月12日から25日までの2週間を、開幕前の集中強化期間に充てた。
練習拠点は北海道亀田郡七飯町の東大沼多目的グラウンド「トルナーレ」。クラブは2005年から2018年まで七飯町で計10回のキャンプを行っており、今回は8年ぶりの再訪となった。
- 期間:2026年7月12日(日)~25日(土)
- 開催地:北海道七飯町
- 練習会場:東大沼多目的グラウンド「トルナーレ」
- 公開範囲:クラブが指定した日のみ見学可能
- 変更可能性:天候、グラウンド状態、選手の体調により時間変更や中止の場合あり
2026/27シーズンは8月開幕。7月3日に麻生グラウンドで全体練習を始めた川崎にとって、七飯町での14日間は通常のシーズン中断期間とは異なる。新しいリーグ戦を迎えるための、実質的なプレシーズンキャンプだった。
初日の7月12日は雨に見舞われたが、クラブ発表では約260人が練習を見学した。歓迎セレモニーに続いて、選手たちはレクリエーションを交えたメニューに取り組み、地元の子どもたちを対象とするサッカー教室も実施した。
競技面だけに閉じず、長年交流してきた地域との関係を再びつなぐ。この点も、七飯町に戻った意味の一つだった。
キャンプの核心は「去年のプラスα」
最大のテーマは戦い方の全面変更ではなく、既存の土台をより高い強度で機能させることだった。
長谷部監督はヴァンラーレ八戸戦後、新加入選手と別のサッカーを始めるのではなく、「去年のプラスα」として質と強度を上げたいという趣旨を語っている。短期間で新要素を詰め込むより、選手が共有済みの原則を実戦速度で繰り返し、成功回数を増やす考え方だ。
高負荷の先に実戦を置いた
キャンプ前半では、長い距離を走るフィジカル要素の強いトレーニングが多く組み込まれた。クラブによると、7月16日の練習試合も疲労を抜き切った状態ではなく、あえて身体に負荷をかけて臨んでいる。
ここで重要なのは、練習試合の2-0という数字だけではない。
- 疲労がある状況でもチームの狙いを再現できるか
- 攻守で成功する場面をどこまで増やせるか
- 開幕後の厳しい時間帯でも判断と技術の精度を保てるか
リーグ戦では、常に万全の状態で戦えるわけではない。移動や連戦、試合中の消耗があるなかでプレー原則を維持する必要がある。その意味で、負荷を残して行った実戦は、単なる仕上がり確認より一段踏み込んだテストだった。
ここがポイント: 七飯町キャンプの評価軸は、練習試合の勝敗だけではない。負荷の高い状況で、前年までの土台に質と強度を上乗せできたかが焦点になる。
S&C面でも試合の動きへ接続
クラブの公式発信では、S&C担当の「テックコーチ」によるメニューにも触れられている。単に身体を温めるだけでなく、対人要素やボールを使った動きを取り入れ、試合を想定した準備を進めたという。
走力を独立した能力として鍛えるのではなく、相手と競り合い、ボールへ反応し、次のプレーへ移る動作のなかで強度を上げる。八戸戦で試されたのは、そのトレーニングを実戦につなげられるかどうかだった。
八戸戦の2得点と新加入選手が示した材料
2-0の勝利以上に注目したいのは、既存選手の得点と新戦力の特徴が同じ試合で確認できたことだ。
川崎はキャンプ5日目の7月16日、ヴァンラーレ八戸と今季初のトレーニングマッチを実施。大関友翔と宮城天が得点した。
大関は背番号16のMF、宮城は背番号24のFWとして2026/27シーズンの登録リストに名を連ねる。新加入選手だけに結果を求めるのではなく、既存戦力が攻撃の成果を出した点は、「前年の土台を伸ばす」という方針とも重なる。
ただし、クラブのレポートは質と精度をさらに高める必要性にも触れている。2得点を完成の証明と見るより、負荷があるなかでも狙いを得点へ結びつけた最初の確認材料と捉えるべきだろう。
ペドロ・ホマーノは最終ラインに強さを加える
背番号4のDFペドロ・ホマーノは、スピードとフィジカルを生かして最終ラインで存在感を示したとクラブが伝えている。
最終ラインの選手に求められるのは、対人守備だけではない。高い位置を取るチームでは、背後の広い空間をカバーする走力や、相手FWとの競り合いに負けず攻撃を終わらせる強さが必要になる。ホマーノの特長が連係のなかで発揮されれば、守備陣の選択肢を広げられる。
一方、実戦での好材料と、公式戦で安定して機能することは同じではない。周囲との距離感、ラインを上げ下げするタイミング、ボール保持時の判断は、開幕まで継続して見るべき部分だ。
カイキ・ケイロスは前進の勢いを作れるか
背番号93のFWカイキ・ケイロスについて、クラブはボールを引き出しながら前向きでエネルギッシュなプレーを見せたと評価した。
前線で待つだけでなく、味方からパスを受けられる位置へ動き、そこから攻撃を加速させる。こうした働きが定着すれば、川崎は相手守備陣の前後を揺さぶる手段を増やせる。
ただし、ここでも鍵は連係だ。いつ下がって受けるのか、その動きで空いた場所へ誰が入るのか。キャンプで見えた個人の推進力を、チームの前進へ変換できるかが開幕後の評価を左右する。
選手間競争は「全員で強くなる」方向へ
キャンプで求められた競争は、先発枠を奪い合うだけでなく、互いの基準を引き上げることだった。
クラブのレポートでは、脇坂泰斗がタイトルへ届くためには全員で強くなる必要があるという趣旨を語り、選手同士が要求し合う様子も紹介されている。中村憲剛ヘッドコーチも、成長することを前提にその過程を楽しむよう選手へ働きかけた。
この二つの言葉は、七飯町での競争の性質をよく表している。
- 新加入選手は個性を示しつつ、既存のプレー原則へ適応する
- 既存選手は過去の実績に頼らず、質と強度を更新する
- スタッフは選手へ要求するだけでなく、練習の空気と基準を作る
新戦力が入れば、ポジション争いは自然に激しくなる。ただ、個人のアピールがチームの連動を壊しては意味がない。長谷部監督が強調した「去年のプラスα」は、新加入組と既存組を分けず、同じ土台の上で競争させるための軸でもある。
見学するサポーターが注意したいルール
公開練習は自由撮影のイベントではなく、チーム情報を守りながら見学する場として運用された。
クラブは、公開日を公式スケジュールで案内するとしたうえで、キャンプ中の練習・練習試合について厳しい記録制限を設けた。
- 練習や練習試合の静止画・動画撮影は禁止
- ノートなどによる練習内容の記録も禁止
- 練習や練習試合の詳細をSNSやブログへ公開することも禁止
- 練習前のサインや写真撮影の依頼は禁止
- ファンサービスは原則として一選手につき一人1回
- 天候、取材、治療などを理由に対応しない場合あり
初日には約260人が訪れ、地元の子どもたちとのサッカー教室も開かれた。一方で、負傷者や戦術、公式戦メンバーにつながる情報は保護する必要がある。交流の機会を続けるためにも、見学者にはクラブが示すルールの順守が求められる。
公開予定や対応方法は変更される可能性があるため、今後の練習見学でも当日の公式スケジュールを確認したい。
開幕戦で確認したい3つの成果
キャンプの本当の成果は、8月9日の東京ヴェルディ戦から公式戦のなかで問われる。
2026/27明治安田J1リーグ第1節は、8月9日(日)18時に味の素スタジアムでキックオフ予定。七飯町キャンプ終了から約2週間で、川崎は新シーズン最初の公式戦を迎える。
注目点は次の3つだ。
1. 強度を90分間維持できるか
高負荷トレーニングの成果は、試合開始直後の勢いだけでは測れない。終盤まで守備の寄せと攻撃時の動き直しを続け、疲労のなかでも判断の精度を落とさないことが必要になる。
2. 新加入選手を既存の連係へ組み込めるか
ホマーノのスピードとフィジカル、カイキの前向きな推進力は、八戸戦で好材料として示された。次は、その特長が周囲の選手を生かし、チーム全体の前進や守備の安定へつながるかを見る段階だ。
3. 「プラスα」を結果へ変えられるか
大関と宮城の得点は、既存戦力にも攻撃の成果が出たことを示す。ただし、公式戦では相手の対策も強度も変わる。前年からの継続部分を保ちながら、得点機会の数と仕留める精度を増やせるかが焦点になる。
七飯町で積み上げた14日間を評価する基準は、キャンプ中の雰囲気や練習試合の一勝だけではない。負荷が高まった公式戦でも、攻守の成功回数を増やせるか。まずは味の素スタジアムで、その答えの一端が見える。

