清水とのTRMでも実力を見せた藤枝。槙野智章のサッカーはチームに何をもたらしてる?
藤枝MYFCは4月12日、IAIスタジアム日本平で行われた「2026年 静岡県Jリーグ加盟3クラブ 強化トレーニングマッチ」で清水エスパルスと1-1で引き分け、PK戦を3-2で制した。得点は52分の矢村健。前日の明治安田J2・J3百年構想リーグ第10節でもFC岐阜を2-1で逆転しており、連日の実戦で結果を残した形だ。
槙野智章監督のサッカーが藤枝にもたらしているものは、ひと言でいえば「攻撃的なチームに、戦い切る強度を足すこと」だ。藤枝らしい前向きな攻撃を残しながら、球際、切り替え、終盤の勝負どころで押し返す力をチームに植え込もうとしている。
- 清水とのTRMは藤枝が1-1、PK戦3-2で勝利
- 4月11日のFC岐阜戦は真鍋隼虎、矢村健の得点で2-1逆転勝ち
- クラブは槙野監督に「攻撃的であること」と「攻撃につなげる守備」を期待
- 現時点の注目点は、強度の上積みを公式戦でどこまで安定させられるか
清水戦と岐阜戦で見えた「終盤まで落ちない」兆し
まず事実関係を整理したい。
藤枝は4月12日の清水戦で、前後半45分のトレーニングマッチを1-1で終えた。52分に矢村健が決め、90+2分に失点。PK戦では3-2で上回った。
この試合だけなら「良い練習試合だった」で終わる。ただ、前日のFC岐阜戦と並べると見え方が変わる。
Jリーグ公式記録によると、藤枝は4月11日の岐阜戦で4分に先制を許したが、41分に真鍋隼虎が同点弾。さらに90+7分、矢村健がPKを決めて2-1で勝った。シュート数は岐阜10本、藤枝10本。CKは岐阜2本、藤枝3本だった。
つまり、藤枝は2日続けて終盤まで試合を動かす力を示した。
もちろん、TRMと公式戦を同じ重さで語るべきではない。メンバー構成、負荷、交代の意図は公式戦と違う。それでも、岐阜戦で90+7分に勝ち越し、翌日の清水戦でもJ1クラブ相手に1-1まで持ち込んだ流れは、チームの土台を測る材料になる。
ここがポイント: 藤枝は「うまくボールを動かすチーム」から、「終盤にもう一度勝負できるチーム」へ変わろうとしている。
槙野監督が足しているものは何か
槙野監督は2025年12月、藤枝MYFCの新監督に就任した。現役時代はサンフレッチェ広島、FCケルン、浦和レッズ、ヴィッセル神戸などでプレーし、日本代表としても国際Aマッチ38試合に出場している。
ただし、藤枝で問われているのは選手時代の知名度ではない。Jリーグの監督として、チームをどう変えるかだ。
攻撃の前に、奪う基準を作る
就任会見でクラブ側は、藤枝が求める方向性として「攻撃的であること」と「攻撃につなげるための守備」を挙げている。大迫希強化部は、2026シーズンに向けてインテンシティ、相手の背後を取るプレー、速くゴールへ向かう攻撃、個人とグループの守備整理、攻守の切り替えを強化したいと説明した。
ここが槙野体制の核心だ。
藤枝はもともと、前向きにボールを扱う色を持つクラブだ。一方で、クラブ側が会見で触れたように、勝ち点1を積み上げる難しさも経験してきた。そこで必要になるのが、攻撃を始めるための守備であり、奪ったあとに迷わず前へ出る判断になる。
「保持するための保持」ではなく、相手ゴールへ近づくためにボールを持つ。奪ったら背後を狙う。失ったらすぐに取り返す。言葉にすれば単純だが、90分続けるには走力、配置、約束事が要る。
「UBAU」はキャッチコピーではなく行動基準
槙野監督は就任会見で「UBAU」をテーマに掲げた。ボール、ゴール、勝ち点、ファンの心を奪うという考え方だ。
この言葉は派手に聞こえるが、試合に落とし込むとかなり具体的になる。
- ボールを奪う: 前線と中盤が連動し、相手の前進を止める
- ゴールを奪う: 背後へのラン、クロス、こぼれ球への反応を増やす
- 勝ち点を奪う: 終盤の交代、セットプレー、PKを含めた勝負どころで決め切る
- ファンの心を奪う: 結果だけでなく、もう一度見たいと思わせる試合にする
岐阜戦の90+7分の決勝点、清水戦の52分の矢村の得点は、このうち「勝負どころでゴールを奪う」部分に重なる。偶然の一発として片づけるより、今の藤枝が何を狙っているかを見る手がかりにしたい。
矢村健の存在が示す前線の競争
清水戦でも岐阜戦でも名前が出たのが矢村健だ。
岐阜戦では71分に真鍋隼虎との交代で入り、90+7分にPKを決めた。翌日の清水戦では52分に得点している。出場時間や役割の細部までは公開情報だけでは読み切れないが、少なくとも2試合続けてスコアに関わった事実は大きい。
藤枝にとって、前線の競争は槙野サッカーを進めるうえで欠かせない。
前から奪いに行くなら、FWは得点者であると同時に守備のスイッチ役になる。背後を狙うなら、ボールを引き出すタイミングとスプリントの質が問われる。終盤に勝負するなら、途中出場の選手が試合の温度を上げなければならない。
矢村が連日の実戦で結果を残したことは、単なる個人の好調だけでなく、チーム内に「途中からでも試合を決める」競争を生んでいる点で意味がある。
まだ課題もある。清水戦の失点は見逃せない
一方で、清水戦は90+2分に失点している。PK戦では勝ったが、90分の中では1-1だ。
槙野体制の評価を急ぎすぎる必要はない。むしろ、今後見るべきなのは次の部分になる。
- 先制後に試合を閉じる守備の整理
- 交代後も強度を落とさない配置と役割
- 前から行けない時間帯のブロック守備
- 得点者が固定されない攻撃の再現性
- 連戦でも走力と判断を維持できる選手層
特に、藤枝は4月18日にヴァンフォーレ甲府、4月25日にRB大宮アルディージャ、4月29日に北海道コンサドーレ札幌と続く。クラブ公式サイトでは4月12日更新時点で藤枝はランキング5位。上位を追うには、良い試合を単発で終わらせず、勝ち点に変える作業が必要だ。
槙野サッカーの現在地
清水とのTRMは、藤枝の完成を示す試合ではない。だが、今の方向性は見える。
槙野監督がもたらしているのは、派手な言葉だけではない。クラブが求めた攻撃性、守備から攻撃への接続、インテンシティ、終盤の勝負強さを、実戦の結果に少しずつ結びつけている。
次に確認したいのは、強度が高い相手に対しても同じ形を出せるかだ。甲府戦、大宮戦、札幌戦で、藤枝がどの時間帯にボールを奪い、誰が背後へ走り、終盤に何を残しているか。そこまで見れば、槙野智章のサッカーが一時的な勢いなのか、藤枝の新しい基準になりつつあるのかがよりはっきりする。
