清水エスパルスは生まれ変わったのか?吉田孝行のチーム作りとは?
結論から言えば、清水エスパルスは「別チームになった」と言い切るにはまだ早い。ただし、吉田孝行監督の下で変わった部分ははっきりしている。選手のひらめきに委ねる時間を減らし、立ち位置、守備の出方、試合後の振り返りまでをチームの共通ルールとしてそろえようとしている。
その変化は、3月22日のサンフレッチェ広島戦で見えた。清水は前半に吉田豊、オ セフンが決め、後半にも北川航也が追加点。公式記録では3-1で勝利し、吉田監督も試合後に「前半は完璧だった」と手応えを語っている。
- 2026年から吉田孝行監督が就任
- 監督が掲げる軸は「トレーニング、試合、ミーティング」の積み重ね
- キャンプ時点で重視されたのはポジショニングとプレー基準の共有
- 3月22日の広島戦では、前から限定して奪い、北川航也の得点へつなげる形が出た
- 一方で、4月11日の広島戦ではシュート数で大きく下回り、押し返す力には課題が残った
つまり、清水は生まれ変わりつつある。だが本当に変わったかどうかは、リードした後、押し込まれた後、主力を入れ替えた後にも同じ基準で戦えるかにかかっている。
何が変わったのか:自主性から「基準」へ
吉田監督のチーム作りで最初に見える変化は、プレーの判断を個人任せにしすぎない点だ。
清水公式の新体制発表会見で、吉田監督は「戦う集団、強いクラブ」にするために意識改革が必要だと話した。そこで挙げたのは、日々のトレーニング、目の前の試合、試合後の振り返りミーティングだった。
これは精神論だけではない。
吉田監督は、相手を分析し、選手を迷いなく送り出し、試合後に「どういうプレーが良くて、どういうプレーが反省点だったのか」を確認することでチームの基準が決まると説明している。清水の変化は、ここにある。
立ち位置をそろえる意味
プレシーズンの記事でも、吉田監督が重視したテーマとしてポジショニングが挙げられている。練習中にプレーを止め、立ち位置を修正し、その理由まで説明する。宇野禅斗も、監督が「確率論」という言葉を使いながら、なぜその場所にいるべきかを伝えていると話していた。
サッカーでは、立ち位置の整理が一つずれるだけで次のプレーが変わる。
- 奪った後にどこへ広げるか
- セカンドボールを誰が拾うか
- 前線のプレスでどちらのコースを消すか
- 最終ラインをどこまで押し上げるか
吉田監督が作ろうとしているのは、選手が自由に動くチームではなく、自由に見えるプレーの前提として全員が同じ地図を持つチームだ。
広島戦3-1に見えた完成形の一部
3月22日の広島戦は、吉田清水の狙いが最も分かりやすく出た試合の一つだった。
清水公式の試合ページでは、19分に吉田豊、21分にオ セフン、66分に北川航也が得点し、3-1で勝利したことが記録されている。単に3点を取っただけではない。試合後コメントには、チーム作りの中身が出ている。
北川航也は、自身のゴールについて、GKがボールを持った場面からコースを限定し、マテウス ブエノのカットを起点に攻撃が始まったと振り返った。そして、立ち位置を取るべき場所に取っていたからカピシャーバも自分もフリーになれた、と話している。
ここが重要だ。
北川の得点は、個人の嗅覚だけで片づけるより、吉田監督がキャンプから繰り返してきた「立ち位置」「限定」「奪った後」の流れが得点に変わった場面として読むべきだろう。
守備でも基準が見えた
同じ試合で、住吉ジェラニレショーンは「どの選手が出ても同じサッカーができる」ことを今の良さとして語っている。これは監督交代後のチームにとって大きい。
新監督のチームは、主力がそろっている時だけ形になることが多い。だが清水が上位を狙うなら、連戦や負傷、出場停止が出ても基準を落とせない。
吉田監督も広島戦後、終盤にラインをしっかり上げられていた点を評価している。押し込まれた時にただ下がるのではなく、もう一度相手陣内へ押し返す。この部分は、後述する課題にもつながる。
まだ「完成」ではない理由
一方で、清水が完全に生まれ変わったと断定するには材料が足りない。
4月11日のアウェイ広島戦は、90分では1-1。オ セフンが71分に先制したが、74分に木下康介に同点弾を許し、PK戦では広島が5-4で制した。Jリーグ公式スタッツを基にした試合分析では、シュート数は広島21本、清水5本と整理されている。
この試合は、吉田清水の現在地をよく示している。
耐える力はあるが、押し返す時間が足りない
清水は劣勢でも試合を壊さなかった。少ない好機でオ セフンが決めたことも、アウェイゲームで勝点を拾う上では価値がある。
ただし、シュート数で大きく下回る試合を何度も続ければ、最後は守備陣とGKの負担が増える。1点を取った後の3分間で追いつかれたことも、チームとして受け止めるべき場面だ。
ここがポイント: 吉田清水の変化は「守れるようになった」だけでは足りない。守った後に前進し、相手陣内で時間を作れるかが次の段階になる。
3月22日の広島戦では、前から限定して奪い、北川の得点につなげた。4月11日の広島戦では、押し込まれた時間が長くなった。同じ相手との2試合で、清水の良い形と課題が両方見えた。
吉田孝行のチーム作りを3つに分けて読む
吉田監督の清水は、派手な言葉で語るより、具体的な作業で見た方が分かりやすい。
1. 試合のためのトレーニング
新体制発表会見で吉田監督は、練習のための練習ではなく、試合を想定したトレーニングを積み重ねると語っている。
キャンプ9日目のコメントでも、自分のスタイルの浸透度は大枠で5、6割としながら、何が良いプレーで何が良くないプレーなのかを映像も使って整理していると説明した。
この「整理」は、清水の選手にとって大きい。迷いが減れば、プレーの一歩目が速くなる。前から行くのか、構えるのか。奪ったら広げるのか、前線へ入れるのか。その判断がそろえば、チーム全体の距離感も整う。
2. 相手を見るリアリズム
吉田監督は、自分が勝つ確率が高いと思うサッカーをやると話している。神戸時代のイメージだけで清水を固定するのではなく、選手の能力や相手の状況を見て変える可能性にも触れている。
このリアリズムは、百年構想リーグのような特殊な大会形式でも大事になる。90分の勝利、PK戦、順位決定戦への流れが絡むため、ただ理想の形を追うだけでは勝点を取りこぼす。
清水が上位争いを続けるには、試合ごとに「今日はどこで勝つか」を明確にする必要がある。
3. 振り返りで基準を固める
吉田監督は試合後のミーティングを重視している。これは、若手や新加入選手を含めて、同じ絵を共有するための作業だ。
広島戦後のコメントを見ると、監督、北川、住吉、宇野の言葉が同じ方向を向いている。
- 監督:前半の内容、ラインを下げないこと、押し返すことを評価
- 北川航也:前から限定して奪い、立ち位置から得点につながったと説明
- 住吉ジェラニレショーン:誰が出ても同じサッカーをできる点に触れた
- 宇野禅斗:全員が役割を整理して良い守備を出せていると話した
選手のコメントが戦術用語の暗記ではなく、試合の具体的な場面と結びついている。ここに、チーム作りの進み具合が表れている。
立場ごとの見方:期待と課題は分かれている
現時点の清水をどう見るかは、立場によって少し違う。
監督側の見方
吉田監督は、広島戦3-1の前半を高く評価しつつ、複数得点でリードした後の戦い方にも触れている。ずるずる下がるのではなく、押し返す作業ができたことを評価した。
一方で、キャンプ時点では浸透度を5、6割と話していた。細かいバリエーションはこれから、という認識もある。監督の見方は、手応えと未完成の両方を含んでいる。
選手側の見方
北川、住吉、宇野のコメントから見えるのは、選手がやるべきことを言語化し始めている点だ。前から限定する、ラインを上げる、役割を整理する。これらは試合中に味方へ声をかける時の共通語になる。
吉田豊のようなベテランが結果を出している点も見逃せない。吉田監督は広島戦後、吉田豊について若い選手の手本になる存在だと評価している。チームの基準を若手へ落とすには、こうしたベテランの振る舞いが効く。
外から見た評価
メディアの論調では、吉田監督の清水は「立ち位置から始まる改革」として見られている。サッカーキングの記事では、プレシーズンからポジショニングを重視し、なぜその修正が必要かまで説明している点が紹介された。
サポーター目線では、勝ち切った3月22日の広島戦と、押し込まれた4月11日の広島戦で受け止め方が分かれるはずだ。良い時の形は見えた。だからこそ、悪い流れの時にどこまで同じ基準を保てるかが問われる。
次に見るべきポイント
清水が本当に生まれ変わったかどうかは、次の数試合でよりはっきりする。
特に見るべきなのは、結果そのものだけではない。
- 先制後にラインを下げすぎないか
- 押し込まれた時に、誰が前進の出口になるか
- オ セフン、北川航也、カピシャーバら前線の関係性が継続するか
- 宇野禅斗を中心に中盤がセカンドボールを拾えるか
- 主力を入れ替えても、同じ守備の基準を保てるか
清水はもう、昨季の延長線だけで語るチームではなくなっている。吉田監督は、選手の判断を奪っているのではなく、判断するための土台をそろえようとしている。
ただし、改革は良い試合だけでは証明されない。3-1で勝った広島戦の前半を、苦しいアウェイや連戦の終盤でも再現できるか。そこが、吉田清水の次の合格ラインになる。
