藤枝MYFCは「槙野色」を結果に変えられるか 3月28日時点で読む、低保持でも勝点を積む攻守の設計
3月28日の北海道コンサドーレ札幌戦を前に、藤枝MYFCはJリーグ公式プレビューで5位。ここ数試合の中身を見ると、単純な保持率の高さではなく、局面ごとの強度、前進の速さ、そしてゴール前の再現性で勝点を拾ってきた。槙野智章監督の新体制は、まだ完成形ではない一方で、「自分たちが主導権を握る形」だけに頼らない現実的な強さを見せ始めている。
とくに注目したいのは、松木駿之介の得点関与と、押し込まれる展開でも試合を壊さない守備の整理だ。近藤優成の離脱というマイナス要素を抱えながらも、藤枝は3月末の時点で上位をうかがえる位置にいる。札幌戦は、その好調が偶然ではないかを測る試金石になる。
何が起きているのか 3月の藤枝を事実ベースで整理する
Jリーグ公式プレビューによると、3月28日の第8節を前に藤枝は5位、成績は3勝1敗、PK戦は2勝1敗。対する札幌は7位で2勝4敗、PK戦は1勝0敗となっている。
藤枝の直近3試合を振り返ると、流れはかなり明確だ。
| 日付 | 対戦相手 | 結果 | ポイント |
|---|---|---|---|
| 3月7日 | ジュビロ磐田 | 1-1、PK戦6-5勝ち | 数的不利でも耐え切って連勝 |
| 3月14日 | RB大宮アルディージャ | 2-1勝ち | 松木駿之介が2得点、強敵相手に内容以上の勝点3 |
| 3月21日 | 福島ユナイテッドFC | 3-3、PK戦5-3勝ち | 打ち合いの中でも得点期待値で上回る |
3月7日の磐田戦では、藤枝は前半終了間際に退場者を出しながらも1-1でしのぎ、PK戦を制した。Jリーグ公式サマリーでも「数的不利の戦いを強いられたが、PK戦を制して2連勝」と整理されている。ここで見えたのは、ボールを握り切れなくても試合を壊さない粘りだった。
続く3月14日の大宮戦は、より示唆的だった。Football LABによれば、藤枝はボール保持率36.5%、シュート11本、ペナルティエリア進入11回に対し、大宮は保持率63.5%、シュート30本、ペナルティエリア進入22回。それでもスコアは藤枝の2-1勝利で、松木駿之介が2得点を挙げた。圧倒したのは大宮だが、勝ち切ったのは藤枝だった。
さらに3月21日の福島戦では、3-3の打ち合いからPK戦を制した。こちらは大宮戦とは逆に、Football LABで藤枝のゴール期待値が2.066、福島が1.412。保持率は42.8%と低かったが、ペナルティエリア進入は15回で福島の13回を上回り、チャンス構築率も12.9%で相手の11.7%を超えた。つまり、藤枝は「保持率で押し切る」より「前進して決定機を作る」方向で、試合ごとの勝ち筋を作り始めている。
深掘り1 低保持でも勝てるのは、前進の質が落ちていないからだ
大宮戦と福島戦を並べると、藤枝の特徴はかなりはっきりする。相手に押し込まれる時間が長くても、前に出たときの一撃の質が高い。
大宮戦では、セットプレーとその流れを含めて限られた侵入を得点に結びつけた。一方の福島戦では、保持率は低いままでも、クロス22本、ドリブル18回、ペナルティエリア進入15回と、前進の手段を増やして試合をオープンにした。要するに藤枝は、ボール支配そのものよりも「どこまで前進できたか」「どこで終われたか」に重心を置いている。
これは、相手や試合展開に応じて勝ち筋を変えられているということでもある。押し込まれて耐える試合と、打ち合いで上回る試合の両方を3月中に経験できたのは大きい。3月末の時点で、藤枝はまだ完成度より適応力で勝点を取っている。
深掘り2 松木駿之介の浮上が前線の輪郭を変えた
3月の藤枝を語るうえで、松木駿之介は外せない。3月14日の大宮戦では2得点。3月7日の磐田戦でも途中投入され、数的不利の中で前線の運動量と出口になった。
松木本人は2025年オフの契約更新時に、移籍初年度を無得点で終えた悔しさを率直に語っていた。その選手が3月の大一番で結果を出した意味は大きい。藤枝は派手な個の打開だけでなく、走力、セカンド回収、クロス対応、セットプレーのこぼれ球反応といった“再現しやすい仕事”で前線を回せるようになってきた。
さらに、地元メディアが伝えた3月1日のいわきFC戦では、ルーキー真鍋隼虎が決勝点を記録した。前線の得点源が一人に固定されないことは、連戦での強みになる。相手に守備の狙いを絞らせないからだ。
深掘り3 近藤優成の離脱をどう吸収しているか
3月10日、クラブは近藤優成が3月7日の磐田戦で左肘肘関節脱臼を負い、全治約8週間と発表した。最終ラインの選択肢が狭まるのは明確な痛手だ。
それでも大宮戦で勝ち、福島戦でも打ち合いを落とさなかったのは、守備が完璧だからではなく、失点しても試合全体を崩さない設計があるからだろう。大宮戦では大量のシュートを浴びながらも、最後の局面で踏ん張った。福島戦では3失点したが、攻撃の出力を落とさずPK戦まで持ち込んだ。
言い換えれば、いまの藤枝は「失点しないチーム」ではなく、「失点しても勝負を続けられるチーム」に近い。これはシーズン序盤の不安定さを前向きに捉えるなら、上積みの余地が残っているとも言える。
立場ごとの見方を整理する
監督・クラブの視点
槙野智章監督は就任時、藤枝で「最高のお祭り、最高のエンターテインメント」をつくると掲げた。3月の戦いぶりを見ると、その言葉どおり、試合が止まらず、感情が動き、前向きなプレーを恐れないチーム像は少しずつ見えている。
サッカーダイジェストが伝えた磐田戦後のコメントでも、槙野監督は数的不利の難しい展開を勝ち切った選手たちを高く評価していた。内容だけでなく、メンタル面の強さをチーム作りの中心に置いていることがうかがえる。
データサイトから見えること
Football LABの数字は、藤枝が保持率では必ずしも優勢ではない一方、試合ごとの勝ち筋を持っていることを示している。大宮戦は低保持・低本数でも勝ち切る試合、福島戦は保持率で下回っても決定機の質で上回る試合だった。3月の藤枝は、同じ勝ち方を繰り返しているというより、別の形で勝点を回収している。
地元メディア・周辺評価の視点
地元メディアは、いわき戦での真鍋隼虎の決勝点や、静岡ダービー突破の意味を丁寧に追っている。全国的にはまだ“話題先行”で見られがちな槙野体制だが、少なくとも3月の藤枝は話題性だけでなく、勝点の積み上げで評価される段階に入りつつある。
札幌戦とその先、何が注目点になるか
3月28日の札幌戦で見るべきポイントは3つある。
- 藤枝が再び保持率を譲ったとしても、前進の質を保てるか。
- 松木駿之介と周辺の前線が、札幌の守備をどこまで揺さぶれるか。
- 近藤優成不在の守備で、押し込まれた時間をどこまで整理できるか。
もし札幌戦でも勝点を確保できれば、藤枝の3月は単なる勢いではなく、上位争いに入るための設計変更だったと見ていい。逆に、相手にボールを持たれたときの出口を失えば、ここまで積み上げた勝点も不安定になる。
現時点での結論は明確だ。藤枝MYFCの上昇は、保持サッカーの完成ではなく、試合ごとに勝ち筋を変えられる柔らかさから生まれている。3月28日の札幌戦は、その柔らかさが本物かどうかを測る一戦になる。
